東京高等裁判所 昭和44年(ラ)562号 決定 1969年11月28日
抗告人
株式会社光力
代理人
平井博也
外二名
相手方
王剣雲
主文
本件抗告を棄却する。
抗告費用は抗告人の負担とする。
理由
本件抗告の理由は別紙記載のとおりである。
(当裁判所の判断)
記録によれば、抗告人(債権者)の破産法第一五五条に基づく申立により昭和四四年五月二八日原裁判所昭和四四年(モ)第一〇九三一号保全処分申立事件として右法条による有体動産仮差押決定があり、これに基づいて抗告人が同年六月四日相手方(債務者)所有の有体動産につき仮差押執行手続を了し、同物件は執行官の占有のもとに相手方の保管に付されたこと、抗告人が同月一六日右差押物件をこのまま相手方に保管させておくときは保全に関し重大な損害を生じるおそれがあるとして、原裁判所に対し右物件につき申立外丸茂倉庫有限会社に保管者を変更することの許可申請をし、同日これを認容する許可の裁判があつたことおよび右裁判に対し相手方より抗告があり、原裁判所が再度の考案により同月三〇日付で右許可を取り消す旨の原決定をしたことが明らかである。
ところで、破産法第一五五条による物的保全処分が、将来破産宣告があつた場合に破産財団を構成すべき債務者の財産を保全する目的のもとに、全債権者のためになされる一般執行であり、その意味において申請債権者の個別執行の保全を目的とする民訴法上の保全処分と性質を異にするものであることは所論のとおりである。そして、本件保全処分のように債権者(利害関係人)の申立に基づいて右法条による保全処分が発せられた場合、前記のような破産法上の物的保全処分の特殊性から見て、その執行も、また民訴法によるべきではなく、すべて裁判所の職権で執行すべきである、とする議論もないではない。しかしながら、保全処分の形式として仮差押・仮処分の方法をとつた場合において、破産法が物的保全処分について同法第一五五条の規定しか置いておらず、他面民訴法による仮差押ないし係争物に対する仮処分も破産法上の保全処分も、将来における財産上の執行(それが個別執行であるか一般執行であるかは別とし)の保全を目的とする点において共通するものであることにかんがみれば、同条が民訴法の保全処分と異なる規定をしている以外の部分については、両法の保全処分の目的ないしは性格上の相違からして異なる取扱いをすべき必要のあるものは別とし、原則として民訴法上の保全処分の規定がこれに準用されるものと解するのが相当である(このことは破産法第一〇八条が破産手続に関しては同法に別段の定めのないときは民訴法を準用していることからも裏書きされる)。そうすると、本件保全処分の執行についても右に述べる限度において民訴法の仮差押の規定が準用されるべきであつて、本件保全処分が債権者(利害関係人)たる抗告人によつて申立てられた以上、債務者たる相手方の占有する有体動産の仮差押を執行するためには、申立債権者たる抗告人が執行官に対しその執行の申立をすることになる。されば、その後の執行は執行官が民訴法第五六六条・第五七一条等の規定に従つて該物件を占有して行うが、その占有形式をどのようにするかは執行官が当然執行機関としての権限において、独自の判断と責任のもとで適当に取り決めるべきものである。してみると、本件の場合抗告人において本件動産の保管者の変更を求めるのであれば、執行官に対し事情を説明して保管替えの申出をすべきであり、かかる申出があつた場合には、執行官においてその当否を判断すべきものであつて、抗告人が前記のごとく原裁判所に対し保管者を変更することの許可申請をしたのは、かりに執行官から原裁判所の許可を求めるよう勧められたとしても、筋い違であり、したがつて、原裁判所が先にこれを認容した前記許可の裁判も失当というべきである。
以上の次第で、原裁判所が再度の考案により前記保管者変更許可の裁判を失当として取り消したのは相当というべきであつて、本件抗告は理由がない。
よつて、民訴法第四一四条、第三八四条第一項、第九五条、第八九条に従い、主文のとおり決定する。(多田貞治・上野正秋・岡垣学)
抗告の理由
一、相手方は、昭和四四年六月二七日東京地方裁判所に対して、当裁判所が昭和四四年六月一六日抗告人のなした保管替許可決定の取消を求め、その理由として(1)有体動産仮差押命令による差押物件の保管方法は、先ず執行官の認定によるものであり、保管者の変更の是非は、裁判所の関与すべきことでない。(2)、仮に右変更の許可権限があるとして、右変更は必要の限度を越えたものであり、許可は違法であると主張したところ、同裁判所は、右相手方の(1)の主張を認め保管者変更許可の裁判を取消した。その理由は、本件の場合、抗告人の求めた保全方法は仮差押の形式に従つてなされたものであること明らかであるから、民訴法の準用により占有形式を選択するかは第五六六条の準用により、執行官に委された権限である故と判断した。
二、しかし、右判断は左のごとく理由がない。
そもそも、破産法第一五五条の財産保全処分は破産財団たるべき財産を保全するため、利害関係人の申立により、また職権でなされるものである。その保全方法は、条文上仮差押、仮処分の文言があるが、民訴上の個別執行の保全たる仮差押、仮処分とは異なることは争いがない。破産法第一五五条で破産裁判所は、破産財団の散逸、毀損防止という目的のため、必要な法律行為か事実行為をなしうることも条文上「その他の必要なる保全処分を命ずることを得」とあることからも明らかである。
三、破産法第一五五条により、破産裁判所がなしうる権限は、多数の破産債権者となりうる債権者の公平な分配を目的とする財産維持であり、個別執行たる仮差押、仮処分という申立人の債権保護という趣旨とはその性質を異にする。従つて、破産宣告後は勿論、その前であつても、破産申立後の裁判所は積極的にその保全に努め臨機応変に、弾力的に処置すべきであつて、非訟事件に近い性質を有するものである。
四、翻つて、破産申立後、本件の場合のごとく有体動産の保管変更につき、果してその権限が執行官にありや、または破産裁判所にありやの点を考察すると、前項記載のごとき性格を有する破産法第一五五条に基づいてなした有体動産仮差押及びその占有方法についても、破産裁判所が権限を有すると解せざるを得ない。その適正なる保管場所の指示も破産裁判所がなすことは当然であり、またその権限を有してはじめて破産法第一五五条の規定の趣旨を全う出来るのである。
右取消の決定は、個別執行と一般執行との差異を看過し、条文上の準用規定を根拠になされたものであつて、明らかに理由がないので、抗告人の主張のごとき裁判を求めるものである。